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東京高等裁判所 平成3年(行コ)50号 判決 1992年1月28日

神奈川県茅ヶ崎市松が丘一丁目一番七四号

控訴人

渡辺馨

右訴訟代理人弁護士

島田康男

神奈川県藤沢市朝日町一-一一

被控訴人

藤沢税務署長 林武文

右指定代理人

堀内明

足立哲

藤村泰雄

小池正文

伊藤祐一

右当事者間の所得税更正処分取消等請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人の所得税について昭和五七年三月五日付けでした次の処分をいずれも取り消す。

(1) 昭和五三年分の更正処分のうち、事業所得四三二万七一九七円、分離の土地等に係る事業所得四三五万九五七五円、税額二二八万〇一〇〇円を超える部分、並びに重加算税及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)

(2) 昭和五四年分の更正処分のうち、事業取得五四九万七五五二円、分離の土地等に係る事業所得四二九万七四一四円、税額二五九万二八〇〇円を超える部分、並びに重加算税及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)

(3) 昭和五五年分の更正処分のうち、事業所得五九七万三七〇〇円、分離の土地等に係る事業所得四八一万二七二九円、税額二八九万〇九〇〇円を超える部分、並びに重加算税及び過少申告加算税賦課決定

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二本件の争点及び事案の概要

本件の争点及び事案の概要は、次に付加するほか、原判決の事実及び理由の第二、第三に摘示のとおりである(六枚目表八、九行目の「昭和五五年一月一二日付」を「昭和五四年一月一二日付」に改める。)なお、関係者等の略称は、原判決の例による。

(控訴人の主張)

共同事業者の範囲及びその持分割合について

控訴人の主張する共同事業者及びその持分割合は、原判決別表(以下単に「別表」という。)9ないし11のとおりであるが、仮に明月(半谷工業。水道工事を担当)及び桜井工務店(建築工事を担当)が共同事業者でないとしても、控訴人は、各人の仕事・業務に応じて手数料(取り分)を支払っているのであり、これは控訴人の事業の経費となるものであるから、控訴人の所得から控除すべきである。

第三証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

第四争点に対する判断

一  共同事業者の範囲及びその持分割合等について

1  本件の共同事業の対象は、茅ヶ崎市柳島近辺の土地を地主から買い上げて、これを宅地として開発し、さらにその土地上に建物を建築して、土地付建物を他へ売却するというものである(控訴人本人、証人今出川、同剱持)。

そして、右事業に必要な宅地の開発(ただし、行政関係の諸手続は除く。)及び建物の建築は、他の業者に請け負わせ、控訴人らは、主として土地の買上げ及び土地付建物の譲渡に当たっていた(乙第二七ないし第三五号証、控訴人本人、証人今出川、同剱持)。

本件において、控訴人は右事業への参加者及び各自の持分割合は各不動産ごとに定められていたとして、右事業に係る総収入と総原価に自己の持分割合を乗じて所得を算出しており、被控訴人も、具体的な共同事業者の範囲及びその持分割合を一部分争いつつ、基本的にはこの算出方法によって所得を算出している。

2  本件共同事業において、証人棚木の証言並びに原判決の争点に対する判断の一2掲記の各証拠によると、共同事業者の範囲及び持分は被控訴人主張のとおりであると認められる。

右の各証拠は、本件各物件の譲渡に係る売買契約書(乙第六号証の一ないし五、第七ないし第二五号証)、共同事業者である(この点は争いがない。)城田作成の物件別収支明細書(乙第二七、第二九ないし第三五号証)、七宝建設作成の不動産売買益の内訳明細書(乙第三七ないし第三九号証の各二)、剱持の厚木税務署長あての申述書(乙第三六号証)である。

3  控訴人の主張を裏付ける証拠等についての判断

(一) 桜井工務店及び明月節男(半谷工業)について

(1) 控訴人は、まず、右両名も共同事業者であると主張する。

桜井工務店は元来建築工事を業とするものであり、明月は水道工事を業とするものであって、いずれも、控訴人の下請的な仕事をしたり、控訴人の事業の手伝をしたりしたことがあるものとうかがえるが(控訴人本人)、桜井工務店については、控訴人と共同事業をしたものではないことは、桜井自身が国税審判所の担当官に対し答述しているところであり(乙第四二号証)、右両名が城田、剱持、七宝建設と同じ程度で共同事業者であるとはいえないことは、控訴人自身が認めるところである。そして、物件の譲渡の契約書にも右両名は現れておらず、物件購入の契約書上、甲第一二号証の一の一件に桜井幸光の名が現れているけれども、乙第四九号証に照らすと、その成立の真正に疑問がある。また、桜井工務店及び明月は、七宝建設等の共同事業者や譲渡先からも、単に控訴人のグループの一員とみられていたにすぎないものであって(証人剱持、同今出川)、これらの点を考慮すると、右両名を本件の不動産の共同譲渡における共同事業者と認めることはできない、なお、甲第5号証の添付資料中の桜井作成名義の確認書等は、客観的裏付けがないので、採用できない。

(2) 控訴人は、仮に桜井工務店及び明月が共同事業者でないとしても、これらに控訴人が支払った手数料(取り分)を事業の経費として控除すべきであると主張する。

そして、控訴人は、共同事業の全体の収入及び原価の一定割合を桜井工務店及び明月に割り振って計算しているが、これは、結局、右両名を共同事業者と認めるのと同様の計算方法にほかならないのであって、このような主張及び計算方法を採ることができないことは明らかである。

次に、控訴人が右両名に一定金額を支払ったことを示すかのような証拠が提出されているので、これについて検討する。

ア 桜井工務店について

桜井工務店が控訴人あてに作成した六通の領収証が提出されている(乙第四二号証の別紙3ないし8。甲第一六号証の一ないし三はその一部と同じものである。)。

これらの領収証には、但書として、本件の事業の対象となったとうかがわれる土地名とかその現場名のみが記載されているが、受領金の趣旨等の記載がなく、いかなる趣旨の金員の授受の領収を示すものか判明しないものである。また、桜井幸光は、国税不服審判所の担当官に対し、控訴人の仕事の手伝をした報酬として四、五回にわたり二〇〇万円ないし三〇〇万円をもらったが、その合計は一二〇〇万円を超えるものではなかった。右受領の都度同人名義で同人個人の実印を押した領収証を発行したが、収入印紙を貼ったと思うとの答述しているが(乙第四二号証)、前記各領収証に収入印紙が貼付されておらず、有限会社桜井工務店の会社印が押捺されているのであって、総計の金額も食い違っている。これらに照らすと、同人が右調書で否定はしているものの、右各領収証が後に作成された可能性を否定することはできないし、そうでないとしても、これらの領収証によって本件事業による必要経費となるべき支払がされたことを認定することは困難である。

もっとも、右乙第四二号証及び控訴人の供述に照らすと、本件の事業に関し、桜井が控訴人の手伝をして控訴人からある程度の報酬を受け取ったことはうかがわれなくもないが、これらは、建物の建築工事代金とは認められないものであって、これらを収入の原価と認めることは困難であり(本件の原価は、次に明月に関連して認定するような事情で算定されたもので、控訴人も被控訴人の主張した原価の額を認めているものであるから、この点に照らしても、右額以上に原価を計上すべきものとは考えられない。)、また、これらに対応すべき前記領収証等が前記のように証拠として採用しがたいものである以上、桜井が具体的にどのような仕事をしたものであるか、その報酬額がいくらであるかを認定することはできないものといわざるをえない(なお、控訴人の事業の必要経費としての販売費及び一般管理費については、被控訴人が同業者の一般経費率によって算定する方法をとったこと及びその経費率については、控訴人は審査請求の段階以来これを認めており、雇人費用の数額についても争いがなかったものである(甲第二ないし第四号証))

イ 明月について

甲第五号証の資料21(領収証)によると、控訴人が明月に対し別表3の番号6の物件に関し工事代金七四万三〇〇〇円を支払ったことがうかがわれる。控訴人は、その他にも、第一次的に明月との共同事業を主張した物件のすべてについて、工事代金を支払ったと主張するごとくであるが、これを認めるに足りる的確な証拠がない。

そして、右別表3の番号6の物件にかかる原価の額については、乙第三四号証(城田作成の物件別収支明細書)によると、同物件に関し明月に対し水道工事代一三〇万円が支払われたことが認められるので、前記領収証の額が右のほかに支払われたものとは認めがたい。そして、本件の事業の原価については、もともと、控訴人が異義審理庁に提出した工事原価明細表を基として被控訴人側において取引先の調査(右乙第三四号証はその一部である。)を加えて認定したものであり(また、証人小野文雄の証言によると、明月に支払った工事代金は、本件所得の計算過程で原価に入れているというのである。)控訴人は審査請求以来本件訴訟においても被控訴人の主張額を認めているのであって(甲第二ないし第四号証(審査請求理由書)及び別表9ないし11)、右控訴人の認めた原価の額以上をさらに控除すべきものとは認められない。

(二) ゼンキ工業について

前記のとおり、乙第八号証(売買契約書)によると、控訴人と剱持とが共同で別表2の番号3の物件を売却したことが認められ、これによると、右両名の共同事業であり、その持分は各二分一と推認される。

控訴人は、右物件についてゼンキ工業も持分四分の一の共同事業者であると主張し、証人剱持、控訴人本人も、ゼンキ工業は東京都台東区にあった会社で右物件の情報を有していたが、現地について土地勘がなかったので物件を控訴人に紹介し、共同事業をして利益を分けたものである旨、右主張にそう供述をする。そして、甲第二一号証(請負契約書)には、建物建築の発注者として控訴人及び剱持とともにゼンキ工業なる記名があり、同第二二号証の一、二(建築業者の発行した領収証)には、その宛名にゼンキ工業なる記載がある。しかし、甲第二一号証にはゼンキ工業のみ押印がなく、右のとおりその表示も誤っていて、ゼンキ工業の部分についてはその作成文書と認めることができないし、甲第二二号証の一、二は甲第二一号証と関連づけて評価すべきであり、そうとすると、その宛名の記載によってゼンキ工業を共同事業者と認めることは困難である。

また、甲第五号証の付属資料中には、ゼンキ工業作成の共同事業に関する確認書、再確認書、申述書があるが、乙第四三号証(ゼンキ工業の経理責任者であった吉田隆の質問調書)、同第四四号証(ゼンキ工業の代表者であった島幹尚に対する電話聴取書)によると、右確認書等は、いずれも、控訴人の側で用意したものに検討もせずに押印したものであって、右関係者は、その具体的内容についてほとんど答述もできない状況にあることが認められる。そして、右の各乙号証によると、ゼンキ工業の関係者が前記物件を控訴人に紹介して、ある程度の利益配分にあずかったことはうかがえるものの、その具体的な内容はほとんど明らかでなく、また、証人棚木の証言によると、ゼンキ工業は建設機器の販売を目的とする会社で、昭和五三年九月期までの確定申告書を提出していたが、右申告書には建売住宅販売による収入の計上はなかったことが認められるのであって、前記のとおり乙第八号証の売買契約書上ゼンキ工業が物件売却の当事者となっていないことに照らすと、ゼンキ工業を共同事業者と認めることはできないといわざるをえない。

(三) 剱持について

剱持が共同事業者であるか否かについて争いのある物件は、別表2の番号4、5、同3の番号7、9、10、同4の番号1、4ないし6の各物件であり、控訴人は、これらのすべてについて、剱持が控訴人及び七宝建設と共同事業者であると主張する。

そして、これらにそう全般的証拠として、証人小野、同剱持の各証言、控訴人本人尋問の結果があり、また、甲第五号証の添付資料中には、控訴人の主張にそう内容の剱持の確認書、再確認書、申述書があるが、いずれも客観的裏付けを欠くものであって、直ちには採用しがたい(証人棚木の証言によると、同人が剱持に裏付け資料の提出を求めたが、剱持は裏付け資料はないと答えたことが認められる。)。そして、剱持自身、乙第三六号証及び乙第四五号証の各申述書において、同人が共同事業者であるのは、被控訴人の認定した物件のみであって、売買契約書上剱持の名の出ていない取引には関係していない旨を述べたりしているのであるから、控訴人の主張にそう剱持の証言等は、たやすく採用できない(なお、乙第四五号証によると、剱持は昭和五三年一〇月ころまで控訴人に勤務して控訴人から給料の支払を受けていたものであって、その後控訴人と共同して物件を扱ったりするようになったと認められる。)。

次に、争いのある物件を大別して、個別に検討する。

(1) 下河原の物件(別表2の番号5)及び向河原の物件(別表3の番号7)について

右各物件は、いずれも、控訴人らが買い上げた柳島海岸の土地の地主に対し、代替物件として譲渡したものであるところ(控訴人、証人剱持)、前記のとおり、右譲渡の契約書(乙第一〇、第一七号証)には、売主が控訴人と七宝建設とされており、また、七宝建設作成の不動産売買の内訳明細書(乙第三七号証の二)には控訴人との共同事業である旨記載されており、剱持の名は記載されていないものである。そして、関連する柳島海岸の物件全体について、剱持を共同事業者と認めがたいことは、後にみるとおりである。

ア 下河原の物件ついて

下河原の物件ついて、甲第三六号証(土地棚卸台帳)の摘要欄に剱持の持分が八分の二であるとの記載があるが、同号証は、本件更正処分の異義申立て以降の時点で小野税理士が作成したもので(証人の小野の証言、弁論の全趣旨)、帳簿として取引の都度記載されたものではなく、また、客観的証拠に基づくものではないので、前記売買契約書、七宝建設の不動産売買益の内訳明細書に対比して、採用することができない。

イ 向河原の物件ついて

これについては、前掲証拠のほかには、控訴人の主張にそう証拠がない。

(2) 柳島二丁目二五六-一ほかの物件(別表4の番号1)について

前記のとおり、右物件の譲渡の契約書(乙第二〇号証)には、売主として控訴人と七宝建設の署名押印がされており、七宝建設作成の不動産売買益の内訳明細書(乙第三八号証の二)には、控訴人との共同事業であると記載されている。

ところで、控訴人は、剱持が控訴人側の共同事業者であると主張し、前掲甲第一二号証の一ないし三の売買契約書には、剱持が控訴人等とともに右物件の一部を購入した記載がある。しかし、前記のとおり、地主杉崎に係る同号証の一は真正に成立したものか疑問があり(しかも、杉崎の発行した領収証とみられる甲第一三号証の一、二の宛名は控訴人のみとなっている。)、また、同号証の二(買上げの契約書)では、剱持は契約の立会人とされており、同号証の三(同)では、立会人の記載を訂正して買受人として剱持の署名押印がされているが、これらの契約書によっても、剱持が一部の物件の仕入れに関与したことはうかがえても、前掲乙第二〇号証及び三八号証の二に照らすと、右甲第一二号証のないし三をもって剱持を本件事業の共同事業者と認定するのは困難というべきである。

(3) 柳島海岸の物件(別表2の番号4、同3の番号9、10、同4の番号4ないし6)について

前記のとおり、これらのうち、前三件については、譲渡の契約書(乙第九、第一八、第一九号証)には、売主として控訴人と七宝建設の署名押印がされており、後三件については、譲渡の契約書(乙第二四、第二五号証)では、売主が七宝建設のみあるいは売主代理稲岡ハウジングと記載されているものであるが、七宝建設作成の不動産売買益の内訳明細書(乙第三七ないし第三九号証の各二)には、七宝建設と控訴人の共同事業と記載されている。

ところで、甲第三四号証の一ないし三は、剱持が柳島海岸の物件に関して金員を受領したことを示す控訴人あての昭和五四、五年当時の日付の領収証であるが、本件更正の調査の段階では提出されなかったものであり、真実、右日付の当時に作成されたものか疑わしく、仮に真実当時作成されたものであったとしても、その作成目的、物件との対応関係等が不明であるから、どのような趣旨の下にこれらの領収証が発行されたものであるかについて判然としないので、これらの書証によって、控訴人の主張を認めることは困難である。

なお、控訴人は、剱持を共同事業者と認定したものとそうでないものとがあるのは、一貫性がないというが、前記認定判断のとおり、客観的証拠によって認められるものを共同事業者と認定したものであって、控訴人の非難は当たらないといわざるをえない。

また、控訴人は、共同事業者としたものについて、剱持及び控訴人の持分を各三分の一としたり、四分の一としたりするのはおかしいというが、これは、城田及び七宝建設の物件別収支明細書及び不動産売買益の内訳明細書に基づき、控訴人に有利に持分割合を認定したものであって、この点についても控訴人の非難は当たらない。

二  裏金収入について

この点についての当裁判所の判断は、原判決の説示のとおりである。

なお、証人剱持、同今出川の各証言、控訴人本人の供述によると、控訴人らが八代住販と交渉したり、代金を受領するときは、共同事業者全員が赴いていたごとくであり、その三名が一致して裏金受領を否定しているのであるが、そうとしても、裏金受領を否定する供述を採用しがたいことに変わりはない。

三  桜井工務店に対する貸倒損失の必要経費算入否認について

この点についても、原判決の説示のとおりと判断する。

なお、桜井工務店は控訴人の仕事をある程度手伝っていたにすぎないものであり、しかも当時既に経営が悪化していたところ、控訴人は、将来会社を一緒にやってもらおうという気持で、いわば恩情として貸付けを行ったというのであるから(乙第四二号証、控訴人本人の供述)、業務の遂行上生じた貸付けと認めることは困難である。

四  建物と土地等を一括して譲渡した場合における「事業所得」及び「土地の譲渡等に係る事業所得」の収入金額の配分方法について

個人が、他の者から取得した国内にある土地等で事業所得の基因となるもののうち一定の要件にあてはまるものを譲渡した場合には、借置法二八条の四の規定により、その譲渡益に対し、土地の譲渡等に係る事業所得として、通常の事業所得に対するよりも高い税率により所得税が課されることとされている。

本件の場合、控訴人は土地と建物を一括して譲渡しているが、土地の譲渡による所得は土地の譲渡等に係る事業所得に該当し、建物の譲渡による所得は事業所得に該当するので、それぞれの譲渡による収入金額及び原価の額を区分して算出しなければならないところ、原価の額の区分は判明しているが、譲渡による収入金額の区分が明らかでない。

右譲渡による収入金額を土地と建物とに区分するには、全体の収入金額を土地と建物の譲渡時の価額の比によってあん分するのが原則であるが(借置法通達28の4-32参照)、右価格を算定することは困難であるので、同通達28の4-32は土地建物の一括譲渡の場合一般について、また同通達28の4-33はそのうち新築した建物を土地とともに一括譲渡した場合について、それぞれ右区分につき一定の合理的な方法を認めることとしている。

本件は、建物を新築して土地とともに一括譲渡した場合であるから、右通達28の4-33の場合に該当するところ、右通達は、社団法人全国宅地建物取引業協会連合会ほか六団体からの要望に基づき、国税庁がその申出を合理的なものと認めて制定したものであり、この区分方法は、不動産業界において合理的なものとされ、慣行化している(弁論の全趣旨)。ところで、右28の4-33は、継続適用を条件として同通達の区分方法を認めるとしており、本件においては、控訴人の側でこの方法による区分をしたものではなく、したがって、この方法を継続しているわけではない。しかしながら継続適用を条件としたのは、年ごとに恣意的な申告が行われるのを防止しようとするにあると考えられるところ、他の方法を採りえない本件において、右のように不動産業界において合理的なものと認められ、慣行化している28の4-33を用いることをもって不合理ということはできず、また、それにより他の業者に比べて控訴人を格別不利益に扱うことにもならない(なお、控訴人は、さらに納税者が28の4-33の簡便法を採用していることが適用の要件であるというが、右が要件であるとは考えられない。)。

そして、同28の4-33は(1)と(2)に分かれ、土地建物の譲渡による収入金額が土地・建物の各取得金額の合計額(昭和五三年分についてはこれに一四二パーセントを乗じて計算した額)を超えている場合には(1)が、そうでない場合には(2)がそれぞれ適用される。そして、本件譲渡の場合はいずれも右(1)に該当するものであるから、被控訴人が右(1)を適用したのは相当である。

控訴人は、本件においては同(1)の適用の要件を具備しないのであるから、原価割合によって区分すべきであって、そうとすれば、結局同(2)に規定されている方法で計算すればよいと主張する。

しかし、控訴人のいう継続適用の点は、28の4-33の(1)(2)共通の条件であるから、これを具備しないからといって、結局において同(2)の方法によるのは不当である。また、控訴人の主張する原価割合による区分の方法は、譲渡益がある場合には必ずしも適切ではなく(一括譲渡の場合、土地と建物について生じる譲渡益がそれぞれの原価の額に対応しているとは必ずしもいえず、土地の譲渡益相当分が建物の譲渡益相当分を上回る場合も少なくないと考えられるが、このような場合には原価の割合で区分するのは相当と考えられない。)、このために、通達は、原価の割合による区分を採りうる場合を、一括譲渡による収入金額が土地・建物の各取得金額の合計額(昭和五三年分はこれに一四二パーセントを乗じた額)を超えない場合に限って認めているものと解されるのである。

五  本件更正の適法性について

本件更正はいずれも適法である。その理由は、原判決事実及び理由の第四、五の説示のとおりである。

六  本件賦課決定の適法性について

本件賦課決定はいずれも適法である。その理由は、原判決の説示のとおりである。

第五結論

以上の次第で、本件更正及び本件賦課決定はいずれも適法であり、控訴人の取消請求を棄却した原判決は正当である。

よって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 岩井俊 裁判官 小林正明)

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